上方浮世絵、とくに天保期の作品には、驚くほど手の込んだ摺りの技法が使われています。色を摺るだけでなく、凹凸や光沢で表現する技。その美しさの秘密を探ります。
Osaka prints, especially from the 1830s, feature luxurious printing techniques such as metallic pigments, blind embossing & burnished patterns.
■ おもな特殊技法 / Special Techniques
| 技法 | 内容 | 見え方 |
| 空摺 | 絵具をつけずに版木で摺り、紙に凹凸をつける | 着物の地模様、桜の花びら、雨、障子の骨などが立体的に浮かぶ |
| 正面摺(つや摺) | 濃い色を摺った面を版木にのせ、猪牙などでこすってつやを出す | 角度を変えると黒地から文様が浮き上がる |
| 金銀摺 | 金・銀・銅などの金属粉を用いる | 光を受けて輝く豪華な画面 |
| つや墨 | 墨に膠や明礬を加えて光沢を出す | 深く艶やかな黒 |
| ぼかし | 版木の絵具を拭き取りながら濃淡をつける | 空や背景のグラデーション |
■ 黒の美 / The Beauty of Black
歌舞伎では黒は「無」を意味し、黒衣や暗闇の中の「だんまり」など、黒は見えないという約束があります。しかし浮世絵に登場する黒は、格式や威厳をあらわし、画面をつややかに彩ります。宗十郎頭巾など、黒の衣裳が役柄を印象づける作品も少なくありません。
■ 白の美 / The Beauty of White
浮世絵の白は、胡粉を使う場合もありますが、ほとんどは紙の色をそのまま生かして表現されます。雪は淡い灰色との明暗でふんわりと、月は黒との対比で明るく輝きます。歌舞伎の白塗りの化粧は高貴な人物を示し、白装束は清らかさや死を覚悟した決意をあらわしました。
■ 摺物様式の役者絵 / Surimono-style Prints
天保3年(1832)前後を中心に、大坂では贔屓連などの配り物として、摺物のように豪華な役者絵が作られました。金銀や空摺を惜しみなく用いたこれらの作品は、上方浮世絵の技術の到達点といえます。
- 空摺や正面摺は、写真や画面越しではほとんど見えません。実物を斜めから光にかざして鑑賞するのがおすすめです。
- 金属粉は時間とともに酸化して黒ずむことがあります。これも経年の味わいとして楽しめます。

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